コンチネンタル彼岸

意識の別荘

浅草:志婦や・浅草サンボア

 

前回の記事。

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どじょう鍋を堪能したのち、オフ会メンバーと浅草の街をそぞろ歩いた。昼間の暑さは多少マシになったとはいえ、かえって行動力の増した人の熱気が空気に溶け込んで、逃げ場の無い濃厚な気配がある。そんな中を歩くうちに同行人の一人を疲弊させてしまったため、馴染みのある手近な店に寄ってみる。

 

志婦や(しぶや)という居酒屋。昭和33年創業。人気店なので大体いつも並んでいるものだけど、この日はすんなりと入ることができた。前回紹介したどじょう鍋の店といい、この日はストレスフリーに入店できる運の良さがある。

 

 

 

20代の一時期、月に一度は東京まで遊びに行っていた。東日本大震災から数年間、北方には追悼や忍従の気配が蔓延り、気が滅入ってどこにも行きづらかった。定期的に東京に出ることで、救いを求めるなどというと大袈裟な表現になるけれど、気力を得ていたように思う。

 

東京は自主的な社会勉強の場でもあった。それこそ、こういうカウンターのある居酒屋などに気兼ねなくふらりと入れたら、自分がより自由に生きれるような気がした。このお店はそんな自分の希望をすんなりと叶えてくれた有難い場所のひとつだ。とはいえ、前回入ったのが2018年だったか。ずいぶんと久しぶりの来店になるが、特になにも変わっていない。

 

 

「社会勉強」は30代を超えていまだに続いている。ということで、このお店はメニューが壁に貼られているので、視線をぐりぐり動かして、自分の食べたいものを見つけることから始まる。

 

刺身盛り合わせ。焼き鳥。このお店は元々は魚屋さんだったと聞く。いつからそれが居酒屋になったかは知らないが、切り身の美しさ、魚介の新鮮さ、「つま」の添え方の巧みさなどからも、それが十分窺える。

 

鮪のぶつ。

 

しめ鯖。甘酢仕込みだろうか。臭みもなく、優しい味わい。

 

 

旬のコハダも頂く。皮が見事に照り輝いている。鯖と比べて身がとても柔らかく、しっとりとした食感。当然、日本酒に合う。ここでも飲み慣れた菊正宗を頼む。

 

 

堪能して外に出る。もはや東南アジアの繁華街のような雰囲気さえ漂う浅草だが、店に足を踏み入れると、なにも変わらない日常的な冷静さが湛えられている、というのは心強い。別にインバウンドを否定しているわけではなく、変わるものと変わらないものが一線を画して明確に存在し得ることこそ、多様性のもつ可能性そのものだと思うからだ。

 

 

そのあと、同行人の提案で「浅草サンボア」へ向かう。サンボア・バーというと、元々は神戸発祥のバーになる。創業は1918年。この店は支店のうちの一軒ということで、蔓草に覆われた雰囲気のある看板が目印だ。

 

 

 

店内は重厚さとカジュアルさが両立した雰囲気。そのあたりは浅草という立地に合わせてあるのかもしれない。私は浅草のバーはほとんど知らない。なんせ、立ち飲みやらホッピー通りやら、折り目を正して飲むという雰囲気が浅草にはまずないし、そもそも私が日本酒党ということもあり、蕎麦屋なんかで銚子を2本ぐらいつけて貰えば大概事足りるからだ。

 

 

ということで、浅草でちゃんとしたバーに入ること自体、新鮮な体験。ただし、我々一同、風体が怪しい。皆揃ってカジュアルで、そのうちの一人は甚兵衛姿という有様だ。やや場違い感を身にひしひしと感じつつ、注文するものを決める。

 

とりあえずジントニックを頼む。バーでジントニックを頼むのは世間で評価が分かれるそうだが、初めて来たお店なら、私はとりあえずジントニックかジンリッキーあたりを頼んで様子を伺うのが好きだ。あと単純に暑いから飲みたくなる。ちなみにこのジントニックはとても美味しかった。

 

二杯目はバラライカ。色々と飲んで食らっての三軒目なので、あれこれ頭で何かを組み立てる力があまり残っておらず、直感で注文した。バラライカとは、ロシアの三味線みたいな楽器の名だ。浅草はロシア料理店が多い場所でもある。ロシアで修行をした料理人が浅草で店を出したことがきっかけらしいけれど、まだ浅草でロシア料理は食べたことがない。いつか試したい。

 

 

バラライカが効いた。バーを出るとき視界が揺らめいたが、歩いて帰るには問題ない。心地よい酔い方だった。解散して、たぬき通りの提灯を見上げながら帰った。あちらこちらから人の笑い声や歓声が聞こえてきて、浅草の盛り上がりはまだまだこれから、というような気配があった。