コンチネンタル彼岸

意識の別荘

自販機のプロを騙る。

 

・二人一組で行動するときがある。二人で頭を下げたり、名刺を出し合ったり、茶を啜ったりする。若干、そのへんを歩きもする。途中、畑の脇に自販機が置いてあったりすると、いちいち立ち止まる。

 

・「見たまえ、君。これはなかなかいい自販機です」と私は言う。相方は、「そっすか」と反応する。「なぜこれがいい自販機だと思うか分かりますか」と問いかける。「あー、あれすかねぇ、やっぱコーンスープがあるのが自分的には」「なるほど。僕もコーンスープは好きだ。一時期、朝ごはん代わりにしてたくらいだ。くはは。ただ、もっと抽象的に見てほしいのですよ。全体を俯瞰するようにして見てみなさい」

 

・「すんませんよくわかんないっす。まー、なんか種類がバラついてる感じはしますね」「さすが、君は優秀です。つまりね、この自販機には「歴史」があるんだ。だいたい自販機といえば、そのメーカーの売れ筋商品が左上から順に並んでいくものだけど、自販機の設置期間が長くなればなるほど、この並びは次第に順不同に、バラバラになっていく」

 

・「簡単にいえば、その自販機で売れているものが、真ん中に寄っていくように並び替えられられる。視線が自然と集まりやすい、飲料業界では「ゴールデンスポット」と呼ばれるあたりに、ここで飲み物を買った履歴が反映されるわけです。この自販機の並び方を見ると、こんな辺鄙な畑の脇にある自販機だけど、たくさんの人がここへ買いに来ているのが一目瞭然ですよ。この自販機は多くの人の大事な生活の一部なんです」


・「一方で、設置したはいいけれど、手垢も付かないまま密かに消えていく自販機もある。けっこうたくさんね。別に自販機が悪いわけじゃない。ただ、自販機は現代のオアシスなんです。人が喉が渇いてやってきたら、ちょうどいいところにある。それが良い自販機なんです。どこに置けばそうなるのか。これは意外と難しい。適当に設置しても駄目。ここを通る多彩な人々に共通して通じるような、渇きの気配。それを感じ取れなければ、そのポイントは分からないのですよ」

 

・「ああ、いつもながら自販機のこととなると長話になってしまう。ここまで聞いてくれてありがとう。じゃ、コーンスープ奢りますから」「いや、別にいま飲みたいわけじゃないんでいいっす」

 

・ちなみに自販機の話のくだりはすべてウソです。