コンチネンタル彼岸

意識の別荘

タイムラグたぬき。

 

ここんところXで「たぬき」に関するポストが多い気がするけど、その背景がよくわからない。「たぬきの日」とかあったんでしたっけ。まあ、私はたぬきが好きなのでたぬきの話題はいくらあってもよろしい。

togetter.com

 

ところで、私もそれなりの田舎に住んでいるので、たぬきに遭遇したことは何度もあるのだけど、いずれもその姿は理想とかけ離れている。健康的にぽよぽよしてるようなのは、動物園でしかお目にかかったことがない。私が世間で見かけるたぬきは、薄汚れてみすぼらしい。生きている姿より死んでいるのを見かけることが多い。


生きているたぬきに出会うするパターンもだいたい決まっている。道路を走っていると、脇の茂みから何やら薄汚れて痩せた動物が飛び出してきて、中途半端な位置で急に止まってキョロッとこっちを見てくる。最初、それがたぬきなのかすらわからない。ずいぶん薄汚い猫だなと一瞬思うけど、顔がぜんぜん違う。ちょっと犬っぽいけども違う。イタチ。それともキツネか。もしくはアナグマ。


連想ゲームを瞬間的にしているうちに、そろそろ轢きかける距離になるのでブレーキをかける。するとその動物が妙にのそのそと動き出し、向かい側の側溝に潜り込んで消える。あっという間の出来事。それからしばらくのあいだ、心の底に一連の光景が残像となり棲みつく。


そして、あるとき台所で洗い物かなんかしてると、「ああ、あの時のあれってたぬきだよね」と気づく。タイムラグたぬきである。リアルタイムで出会っても、たぬきなのかよく分からないのに、時間の経過とともに、なんとなく自分の中で腑に落ちるというか。意識の裏側でひそかに行なわれていた演算が、「あれはたぬきだ」と、ようやく答えを出してくる。


ネットでは理想的なたぬきの姿がいくらでも見れる。あんな丸っこくてふわふわしたたぬきが目の前に現れたなら、非常に幸福な気持ちになると思うけど、残念ながら私のリアルなたぬき遭遇は、いつも唐突でそっけない。体験としての解像度も低く、たいして感情の抑揚もない日常のごく延長にある。妙に錆びた軽トラが目の前をノロノロ横切っていくのを、ぼんやり眺めるのに近い。

 
これはたぬきケーキです。